●国 名:バーレーン王国[巴林]★WGT 第10フェーズ第34回(通算第170回)【バーレーン料理】報告
●国 名:バーレーン王国[巴林]
●実 施:The Kingdom of Bahrain Pavilion Cafe(バーレーン王国館カフェ) 大阪・関西万博バーレーンパビリオン[大阪]
●実施日:20２5/9/3(水)
●参加者:3名(幹事:善恵姉)
いやぁ、壮絶な回でした。
今回の企画のベースは、WGTでこれまで何回か実現してきた国際イベントを借りての実施でした。これ自体は、日本にレストランを有しない国の料理を食せる機会として有効で、主宰としても異論があるはずもなく二つ返事で了承。おまけに高を括って、選定国についての調査や当日の動きについては、いつも通り幹事殿に丸投げ状態にさせてもいただいたのですが、いやぁ〜、幹事殿には、まったくもってご苦労をお掛けすることなりました。
まず、今回幹事となった善恵姉が白羽の矢を立てたのが、EXPO 2025 大阪・関西万博！ 世界中の国が大阪にやってきて自国のアピールをする環境ですから当然食指が動きますね。
結果、選国されたのはサウジアラビア、バーレーン。加えて新参国が並びながらそれぞれ一品しかなく、かつ御国探訪が十分実施できないことから苦肉の策としたWGT-EXTRA13 WGT in 万博という3環境が企画されました。
しかし、本割の2か国については事前予約を設定しないレストランの方針があり、かつWGTとしてもわざわざ大阪くんだりまで足を運んで満席で空振りというわけにもいかないので、チケットの取り方調べと適切なチケットの選定、空いている時期の見込み判断、当日の入場のノウハウ調査、ライブカメラでの裏付け確認(数日間午前４時に起きて監視)など、御国の蘊蓄準備や料理の概観把握以前にやることが目白押しで、幹事殿の整え作業は地獄と化しました。
参加メンバーについても苦行はあって、初日の動きを例にすると、結果導かれたプランに準じて、平日開催ゆえの有給休暇取得から始まり、前泊で大阪へ移動、当日は午前9時の入場時により先頭に近い位置を確保すべく午前4時起き、午前5時：始発電車が動いていないのでタクシーで会場へ、午前6時前：3番手に着けるもまだ会場に入れないのでタクシー車内で１時間待機、午前7時前：やっと開門してタクシーを降車の後は400mほどをダッシュで入場列に(かなり追い抜かされ３列目)、その後早朝とは言え気温とアスファルトの放射熱と人垣の熱気の中待機１時間、午前8時：入場ゲート前に移動し、有利とされる場所に位置取りをしてさらに50分、午前9時前：荷物持ちと目当てのパビリオンに向けて走る担当を分けていざ入場！と、WGTのためにここまでせねばならないのか！と愚痴る声があがるほどでした。
そして、この従来の開催では経験したことがないレベルの苦行は、その後の動きにも少なからず影響を与えることになりました。
ここからは、そのバーレーン編です。
そう言えば、幹事殿がなぜバーレーンを選択されたのか確認もしませんでしたが、他に選択肢が無かったのかしら？ はたまたイマイチだったでしょうか？
開催案内にも書きましたが、頑張って検討いただいた幹事殿には失礼ながら、中東被りが玉に瑕な選国で、どうせなら毛色の違った国の料理を食べたかったところ。でも、出された料理はアラブアラブしていない内容で、似たものを食べた印象はありませんでした。WGTは持っていますね！ いや、幹事殿の努力の賜物と称しておきましょう。
それはそれとしても、バーレーンという国を単独で見れば、この国が開催し辛い国であったことはその通りなわけで、このピースが開いたことのほうが無上の喜びでした。
話を戻して、プロローグの続きを記しましょう。
バーレーンも、前日にクリアしたサウジアラビアと同様とは言わないまでも、食いっぱぐれしないように、会場一番乗りを目指して行動しました。
タクシーは使わず始発電車利用で良しとしたものの、電車を降りれば福男レース同様に前方を確保すべくダッシュがかかります。
リュックサックを背負ってのランニングは、この齢にして酷かと思っていましたが、意外と走れて、先頭から数えられる位置ではないながら、まぁ良いところに陣取ることに成功します。
ただ、苦悩はここから。前日の疲れや連続の早起きが祟ったか、熱中症症状が入場前から顕著に。何度も列を離れ、少しでも涼しいところを探して我が身をクールダウンさせていました。後々会期が終われば、黒字経営になって良かっただの、名残惜しいだのの感想ばかり流されていましたが、こちとらに言わせれば、まったくもって人殺しイベント。WGTが無ければ絶対来る気にならなかった！と、愚痴に溢れ閉口しきりな印象が80％と言えました。
それでも、いざ開場すれば、四の五の言っている場合ではありません。再びリュックサックを背負ってのダッシュ！ この日バーレーンパビリオンを狙うライバルがおらず、余裕の一番客をゲットはしたものの、なんと10時開店と思っていたカフェが11時開店と知らされ、その並び列も20分前くらいにならないと設置されないとのことで愕然となります。
イライラしたところでどうにかなるものでもないし、この時点からは後1時間半も空き時間ができることになったので、一旦先着の成果を放棄して、この日もパビリオン見学に勤しむことから始めることになりました。
当然バーレーン館で本割直前の最終予習をすることが最初にすべきこと。レストランは11時開店も、パビリオンは9時から見学可能だったので、しっかり勉強させていただきました。
外観はダウ船をイメージしていて、エキゾチックな風情が好印象。とは言え、この骨組み構造が災いして吹き曝しの展示環境になっているため、パビリオン内は冷房が効きません…いやありません。その代わりなのか？所々に扇風機はあったものの、係員が占有しているので恩恵に預かれずじまいで、結局「暑い、アツイ、あつい…」を連呼しながらの見学となりました。
仕方が無いので足早に展示を眺めると、おぉ〜っと感は無かったものの、事前勉強の甲斐あって、ディルムン文明含めた古代史の史料や天然真珠の紹介などフムフムという気分にはなったものです。また、バーレーンの専売特許ではありませんが、F1の開催国でもあるねぇということも思い出されてくれました。こんなことで、WGTを併設開催したサウジアラビアのパビリオンに比すれば御国柄が偲べましたが、でもこの辺りくらいまででした。
全く関係ありませんが、隣のアゼルバイジャンパビリオンが、しっかり冷房を効かせてくれていたので、2度も訪館したり長居したりで、時間を潰しついでに、より真剣に展示を眺めていたように思います（笑）。
そうこうしている家に時間となり、The Kingdom of Bahrain Pavilion Cafeに向かいます。
再び列の先頭に陣取れたこともあり、余裕での入場に成功します。
いざバーレーン料理を！ではありますが、登場するのはバーガー。
カフェなので、レストラン的な料理とはならず軽食になるのは止むを得ません。その中からバーレーンらしさを探ります。
メニューのベースはスターター3種＋サンドイッチ2種＋デザート2種となっており、自由なコンビネーションが選べましたが、WGTについては、皆で取り分けるのであまり真剣に検討する必要はなし。3人参加なので全てのメニューを制覇できることを確認し、注文を洩らさないことを注意すれば良いだけでした。
特徴的だった料理を一部のみ振り返ります。
スターターからはアルー・バシール。スパイス風味のポテトとミントのパイ、バーレーン風トマトソース添えとあります。料理本体ではなくソースがバーレーンなのですね(笑)。
それではと何が施されるとバーレーン風トマトソースになるかというと、タヒニ(胡麻ペースト)が混ぜこまれることがポイントの模様。他にレモン汁、にんにく、オリーブオイルなど様々な調味料や材料が足されて整えられます。実はバーレーンオリジナルではなく、中東全体で利用されるソース。バーレーン固有の組み合わせがあるのかは定かになりませんでした。
因みに料理名については、首都マナマにあるストリートフード店に由来する模様。Alooはヒンディー語でジャガイモ、Bashirは店名だそうですがインド系の人名、そして、インド料理のサモサに似た形状の料理。異文化交流の交差点となっているバーレーンには、インドの食文化も当たり前のように入り込んでいます。こういう料理をバーレーンパビリオンカフェに取り入れているところに柔軟性を感じたものです。
実食感想は、正直言って、サモサをケチャップで食べた…程度でした。上記の整理は後々はっきりしたものでしたが、もう少し丁寧に料理に触れないとシェフに失礼でしたね。
ティッカローストビーフサンドは、ピタパンにルメー(ブラックライム)で味付けされたローストビーフ、香草を具材として、デーツマヨネーズで味付けしたサンドイッチ。タラシェフのおすすめとも命名されており、随一の料理としてフォーカスされていました。
中東では馴染みのルメーやデーツ、ピタパンを使っている点は御国らしさを感じさせ、日本には馴染みが無い風味はマヨネーズで中和して食べやすくしていたと感じさせ、このコラボレーションは絶妙だった気がします。
実食感想は、後述もしますが、日本食材を使っているという点が特徴的で、口に広がるビーフの風味は和牛の脂の香りと察しましたが果たして？ それくらいジューシーで食べやすかったということです。
グージー・ブリオッシュはラムショルダーとフライドオニオンをブリオッシュパンに挟んだサンドイッチ。Ghoozi(仔羊)＋brioche(フランスのバターパン)ということ。
でも、パンの形状はバーガーじゃん！と、当日はその特性については関心が向かず、およそバーレーン料理とは思えない見た目にずっと引きずられていました。ただ、ラム肉の風味が中東らしさを醸していていて、それがバーレーン料理であることを思い出させもしました。
よくよく思い出してみると、バンズもその辺りで食べるハンバーガー屋のバンズとも一線を画していた気がしており、それはブリオッシュならではのバターや卵の風味だったのですね。
実食感想は、上記もしたラム肉の魅力に惹かれていました。日本で食べると臭みが気になることが多いのですが、食べつけている国の人が調理すると、良い面の個性だけが際立って魅惑の料理に化けます。この日も同様の印象を抱きました。
とは言え、双方の料理とも、バーレーン料理と言えないのでは？ということも言えそうですね。それでも、シェフの柔軟性が高じて、新しいバーレーン料理として定着することがあれば、それもまた一興。大阪万博発が新しいバーレーン料理が生まれるきっかけとなったと想像するのも食文化の楽しみ方と言えましょう。
他にはサラダも中東食材が使われたり、デザートもルメーが使われたりと個性的でしたが、おそらくは一味二味も御国を超えた工夫が施されていたことでしょう。
やりすぎとみるか、新しいバーレーン料理と見るかは意見の分かれるところですが…結論はまとめにて。
料理もさることながら、今回のカフェの売りにはシェフの存在もあったようです。
それは、バーレーン人のタラ・バシュミさんという気鋭のシェフ。
その生い立ちは、7年間バーレーン女子サッカーナショナルチームに属したという経歴からスタート。その後在宅でデザート販売をしてヒットさせると、バーレーンのガルフホテルに研修生として参加し、その後はスイスに留学する傍らレストランにも勤めて研鑽を積み、2014年に帰国すると、研修したガルフホテルに里帰りしてオーナーシェフとなります。
2019年には中東トップシェフを競うコンテストで準優勝して箔を付け、2021年にはイギリスのレスラン雑誌(今のところミシュランのような権威があるわけではなさそうですが)からベスト女性シェフ賞を授与されるなどして現在に至っています。
シェフの拘りであるフュージョン料理は、世界のストリート料理と懐かしい家庭料理への愛情、そして何よりも中東の風味を料理に込める情熱に溢れている、あるいはバーレーンの食文化を現代的に刷新し、「料理」と「ガストロノミー」の間のギャップを埋めるとのことで、このパビリオンにおけるメニューにも、その本場バーレーンの味を再現に努めつつ、それを新鮮な日本の食材と融合させて実現するというコンセプトが込められていたようです。
確かに、バーガーというスタイルはアラブ料理の雰囲気をさせなかったものの、食べれば中東の風味が感じられ、でも日本人として食べて違和感があるものではなく…という料理に仕上がっていたのは、バシュミシェフのフュージョン感に合致していたといえそうですね。
さて、以上がバーレーン料理の振り返り。
前日に実施したサウジアラビアの回では、熱中症で食欲減退状態だったものの、この日はしっかり完食。冷房環境は同様に乏しかったのですけどね。
それでも、それくらいの気分で食せれば、実食の向こうに御国柄を感じ取ることができるというもの。
バーレーン料理の典型では無かったのでしょうけど、イスラム教国でありながら柔軟な国体を有するバーレーン、バーレーンの伝統を守りつつ現代的なスタイルを模索するシェフ、そのマインドが現出された料理と、新しいバーレーン気質を感じることとなり、なかなか興味深い会食となりました。
パビリオン見学はそれとして、バーレーン蘊蓄については、結局開催案内に記したことが一番ビビッときたところ。
バーレーンの場所さえ覚束なかったのですが、その場所を把握し、その歴史を概観すると、やはりアラブやペルシャの大国に囲まれながら実質的な独立状態を維持してきたこと、そのような環境下において、意外と宗教戒律の遵守が緩やかであることが、その後様々な資料を眺めても信じられない状態と言えました。
中継貿易で発展してきたようなので、宗教戒律については、異文化が入り込み互いの妥協から寛容さが生まれたとも想像しますが、そんな美味しい土地は利権を目当てに誰かが食指を動かすはずで…でも、代々の為政者が上手く立ち回ったのか、南極しかりこの地は、誰も手を付けてはならないとの暗黙知があったのか…。バーレーンの処世術に、何かしらの具体的な工夫や明確な理由があったのであれば、それはこれからの世界においても、小国が平和に生き残るヒントになるのではないかと思うところです。
天然真珠については、事前調べにおいて、日本が養殖真珠でマーケットを凌駕して以降斜陽産業との理解でしたが、バーレーンパビリオンの展示にはかなりのスペースが割かれていました。
世界遺産になっているからかもしれませんが、未来に向けてという観点からは、正直今更…と思うところ。それでも、産業としては成立しないにしても、伝統手法を維持しその価値も未だ定評があるようなので、ニッチながらアピールするべきところなのかもしれません。
もっとも、個人的には各国の二番煎じの取り組みを並べられるより、自国のオリジナリティな産業を紹介される方が個人的には興味が湧くと言え、好感が持てる展示でした。
開催案内にも触れましたが、後は、養殖真珠の成功でバーレーンからマーケットを奪った日本が、疎まれていないことを祈るばかりです。
その他は事後で確認できた小ネタを並べようかと思いますが、その一つは生命の樹(Tree of Life)。
アラビア砂漠の中で、周囲に水源がないにも関わらず、400年以上も枯れずにいる神秘の木。周りに他の木はなく、その木だけ一本生えているため、どうやって生き延びているのか多くの謎に包まれており、地中深く根を伸ばして地下水を吸い上げているとか、空気中の水分を得ているとかの想像を駆り立てます。
しばらく前に流行ったド根性○○の類ですね。
その実は乾燥に強いアカシアの木とのことで、その特徴を確認すると、根は浅く、水は雨水程度でも十分らしいので、砂漠とはいえどもたまに雨が降るならそれで生き延びられるのでしょう。
一応観光スポットになっているようです(笑)。
もう一つ、へぇ〜と思ったことは、仙台市程度の国土なのに、5つの自然保護区があるということ。
そんなに貴重な生態系があるのか？と思ったのですが、実はテーマごとに分かれており、一部は島嶼部一部は海中なんてことになるのがオチ。
アル・アリーン野生動物保護区が最も大きいもので、砂漠地域に順応した希少動物がいることが特徴。野生では絶滅したアラビアオリックスは際たる動物。その他イヌもただのイヌならず、ウサギもただのウサギならずという具合。
ハワール諸島保護区は、この海域の海鳥や渡り鳥などといった鳥類、ジュゴンやウミガメといった海洋生物などを保護します。
国営は上記二つ。
他に、湿地生物の保護を目的としたアラビア湾沿岸湿地保護区、汽水域の生物の保護を目的としたマングローブ林保護プロジェクト、漁業資源やサンゴ礁保護を目的とした海洋保護区という辺り。
ラムサール条約のような国際条約を背景として活動している部分もあり、その特徴を突き詰めてみれば、意外と面白い結果に出会うような気もします。
動物を飼ったり接したりすることに関心があるわけではないのですが、動物学自体に関心があるので、ビビッと来たネタでした。
何やら自然を中心に着目してしまいましたが、実はこのバーレーンの現代における安定は、石油の発見とその後の金融経済へのシフトが上手くいっていることの成果と言えます。石油の埋蔵量が他国に比べて乏しいこともあり、早くに脱石油にアプローチした結果ですが、持たざる国として金融経済がもたらした成果は、小国ゆえGDPは決して高くないものの、2024年時点で一人当たりにすると世界45位(日本は40位)となかなかのもの。
過去の遺産もさることながら、都市部には近代的な超高層ビルや奇怪なデザインの建物もあって、なかなかな壮観さが拝めます。
日本もそうですが、新旧の時代の魅力が楽しめる点を知ったことで、ちょっと関心が高まってきました。昨今は観光業への注力度も高まっているようです。行ってみたい国の一つにノミネートさせてみようかしら。
最後になりましたが、改めて幹事殿のWGTの歴史最大ともいえる多大なるご尽力を慰労させていただきます。
同道の皆様もお疲れ様でした。
次回以降です。
第165回はアミタ姉がカナダ料理を担当。立て込んでいるため開催募集保留中です。
第166回はToshがマラウィ料理を担当。実施済、
第167回はアミタ姉がフィンランド料理を担当。実施済み。実施報告作成中です。
第168回は善恵姉がサウジアラビア料理を担当。実施済、バーレーン料理報告と併せてアップしました。
第169回は須坂姉がオランダ料理を担当。主宰案内文作成中です。
第171回はToshがウルグアイ料理を担当。立て込んでいるため開催募集保留中です。
今後のWGT、いずれの回も皆さま奮ってご参加ください。
WGT主宰 Tosh