●国 名:サウジアラビア共和国[沙地亜剌比亜]★WGT 第10フェーズ第32回(通算第168回)【サウジアラビア料理】報告
●国 名:サウジアラビア共和国[沙地亜剌比亜]
●実 施:IRTHレストラン 大阪・関西万博サウジアラビアパビリオン[大阪]
●実施日:20２5/9/2(火)
●参加者:3名(幹事:善恵姉)
いやぁ、壮絶な回でした。
今回の企画のベースは、WGTでこれまで何回か実現してきた国際イベントを借りての実施でした。これ自体は、日本にレストランを有しない国の料理を食せる機会として有効で、主宰としても異論があるはずもなく二つ返事で了承。おまけに高を括って、選定国についての調査や当日の動きについては、いつも通り幹事殿に丸投げ状態にさせてもいただいたのですが、いやぁ〜、幹事殿には、まったくもってご苦労をお掛けすることなりました。
まず、今回幹事となった善恵姉が白羽の矢を立てたのが、EXPO 2025 大阪・関西万博！ 世界中の国が大阪にやってきて自国のアピールをする環境ですから当然食指が動きますね。
結果、選国されたのはサウジアラビア、バーレーン。加えて新参国が並びながらそれぞれ一品しかなく、かつ御国探訪が十分実施できないことから苦肉の策としたWGT-EXTRA13 WGT in 万博という3環境が企画されました。
しかし、本割の2か国については事前予約を設定しないレストランの方針があり、かつWGTとしてもわざわざ大阪くんだりまで足を運んで満席で空振りというわけにもいかないので、チケットの取り方調べと適切なチケットの選定、空いている時期の見込み判断、当日の入場のノウハウ調査、ライブカメラでの裏付け確認(数日間午前４時に起きて監視)など、御国の蘊蓄準備や料理の概観把握以前にやることが目白押しで、幹事殿の整え作業は地獄と化しました。
参加メンバーについても苦行はあって、初日の動きを例にすると、結果導かれたプランに準じて、平日開催ゆえの有給休暇取得から始まり、前泊で大阪へ移動、当日は午前9時の入場時により先頭に近い位置を確保すべく午前4時起き、午前5時：始発電車が動いていないのでタクシーで会場へ、午前6時前：3番手に着けるもまだ会場に入れないのでタクシー車内で１時間待機、午前7時前：やっと開門してタクシーを降車の後は400mほどをダッシュで入場列に(かなり追い抜かされ３列目)、その後早朝とは言え気温とアスファルトの放射熱と人垣の熱気の中待機１時間、午前8時：入場ゲート前に移動し、有利とされる場所に位置取りをしてさらに50分、午前9時前：荷物持ちと目当てのパビリオンに向けて走る担当を分けていざ入場！と、WGTのためにここまでせねばならないのか！と愚痴る声があがるほどでした。
そして、この従来の開催では経験したことがないレベルの苦行は、その後の動きにも少なからず影響を与えることになりました。
ここからは、そのサウジアラビア編です。
まず、幹事殿がターゲットとしたのがサウジアラビア。
万博といえどもフード提供を本格的にやっている国は限られており、かつWGT未実施国となると途端に減ります。そんな中で最有力だったのがこのサウジアラビアでした。
この国はアラブの大国でありながら、日本にも知られている国ながら、この国が代名詞となる料理がありながら、何故か日本にレストランが存在しません。アラブ料理なんて似たようなものだからレバノン辺りに任せておけば良いとうことなのか、サウジアラビア自体つい最近まで(2019年まで)準鎖国状態だったため、国外にレストランなんて望めるわけないでしょう！ということだったのか…。
ということで、主宰としては、サウジアラビアがWGTにお目見えすることは、かなり感涙ものでした。
ただ、入場最難関という情報だったゆえ、幹事殿に上記のようなご苦労を強いることになった次第です。
話を戻して、プロローグの続きを少し記しましょう。
入場に際しては、3人参加したうち、女性2人が手ぶらでサウジアラビア館まで走る役、主宰Toshが荷物持ちとして後から追いつく役という分担。ライバルが少ないことを祈っていましたが、結果は15番目くらいでしたでしょうか？
それでも当日枠の確保はできて一安心…というか、もうそれで目的を達したかの如し。燃え尽き症候群が始まっていました(笑)。ただ、サウジアラビア料理にありつけることは確実になったものの、絨毯に座ってアラブ風の食事ができかつ冷房の効いた場所はすでに全部取られていて、パラソル付とは言え炎天下のオープンテラス席しか取れませんでした。それも12時からの枠。夕方にWGT-EXTRA13の併催が予定されていたので、遅い時間に繰り下げられなかったゆえですが、これもまた弊害を生むことになりました(こちらについては後述します)。
もろもろ手続きが終わってまだ9時過ぎ。12時までの空き時間はパビリオン見学に勤しみました。
当然いの一番はサウジアラビア館。でも、あまりそそらず。パビリオン外壁の白壁は良い雰囲気を醸すも、中の展示は、なるほどこれがサウジアラビアか！という気分になりませんでした。
次の2030年はリヤド万博ゆえ、プレ開催として力を入れているという下馬評もあったのですが、現代芸術はサウジアラビアらしさをどこに感じればよいのか分からず、持続可能性への取り組みは何がそれなのかイマイチ伝わってこず、スポーツは2029年アジア冬季競技大会の開催国・2034年ワールドカップの開催国などとやる気は感じるもサウジアラビア自体が強くないし、宇宙開発も目指しているところが不明だったし…。
こちらが腰を入れて見学しなかったのが悪いのか、サウジアラビアの知識が乏しすぎるゆえの自業自得なのか、たまたま興味を持てないテーマだけだったのか、レストランの席が確保され燃え尽き症候群となり集中力が残っていなかったのか、かなり開催されたらしいステージイベントを見れば感激したのか、そもそも「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマゆえ御国紹介より取り組みを中心にアピールされていることによる必然だったのか…。
予習していた蘊蓄、例えば、昨今はアニメについて日本とコラボレーションしているなんて小さな話題が展示の一部にあり、意外にビビッときた程度でした。
もっとも、この傾向はサウジアラビア館に限った話ではなく、その他のパビリオンも似たり寄ったり。建物の概観は楽しめたものの、中身の展示で目から鱗の印象には至りませんでした。予約も不要、空いていそうなマイナー国を中心に廻ったからですかねぇ。
そうこうしている内に、予約時間になったので、サウジアラビア館IRTHレストランに向かいます。
IRTHはイールスと読み、アラビア語で「遺産」を意味します。
注文は、何はともあれMAXを楽しみたいとの思いから、サウジアラビア体験コースをチョイス。
まず全体的なことをいうと、実はこれまで食べてきたアラブ料理とは一線を画す料理が並びました。後々調べると、アラブ料理として存在感がある物だったのですが、WGTがよく知るフムス・ファラフェル・タブーリ・ケバブ・シャワルマなんてメニューどころか、サウジアラビアの代表料理とされるカプサすらお目見えしなかったのです。
それは良いとしても、じゃあ、気持ち新たにと調べてみたところ情報がヒットしないのです…orz。レストランが示すメニューにはそれなりに詳しく書かれていたのですが、客観的な視点やバリエーションを確認しようとしたものの、調べ方が悪いのか英語で引いても目ぼしい内容が得られませんでした。
ということで、想像含めてコメント価値がありそうな料理を抜粋してサウジアラビア料理を振り返ります。
ハッブスープは大麦とトマトのスープ。
メッカのあるマッカ地方(アラビア語発音はどちらもmakkahなんですけど…)の伝統料理。
ラマダン明けの最初の食事として定番ゆえ、具だくさんで作られる特徴もあります。またスパイスが様々に使われるため、複雑な味わいも楽しめます。
スープとはいえ、一品料理として扱われるので、最初に登場して腹一杯になったらどうするんだ？という心配もありましたが、むしろ食欲増進につながる味わいだったかと。…とはいえ、別事情で実際はそうもならなかったのですけど。
実食感想は、辛くは無かったもののスパイスが強かった印象。身体には効くぅ〜という気分にはなったものの、飲み切るのにちょっと時間が掛かりました。
ムファラグは、麦飯を干しエビとブラックライムの出汁で炊きこんだ料理。付け合わせに焼きエビとゆで卵がついていて、そちらに視線が行きがちですが、その下で枕になっている麦飯が主役です。
サウジアラビア東部発祥の料理とのことで、被りが多い中東料理の中でもサウジアラビアオリジナルとして押さえておくべきかと。
レストランメニューの説明には、「干しエビは近くに海がない地域ならではの工夫…」とあるのですが、東部はペルシャ湾に面しているのですけどぉ…。どういうこと？
発祥した東部特有料理で終わるなら干す必要はないものの、内陸でも食されるようになる過程で工夫が施されたということなら納得感がありますけどね。あるいは、東部と言いながらオマーンやUAEと国境を為すエリアを言っているのかしら？
実食感想は、麦飯らしいモシャモシャ感はあるものの、干エビのエキスが良い感じに香って食べやすい料理でした。逆に付け合わせのエビは殻剥きが面倒で閉口(サウジ料理に限らずですけど)、四の五の言わずバリバリと食べればよかったのでしょうかね？(笑)
ジャリーシュは全粒粉のミルク粥。中央にふんぞり返るのは、ムサマナと呼ばれる玉ねぎとルメー(ブラックライム)のソース。
これこそ真のサウジアラビア国民食とされます。
サウジアラビア料理の代表格というと、今回登場しなかったカプサが知られますが、この料理は近代になってからのものとのこと。日本でもそうですが、そもそも肉料理が当たり前になるのはかなり歴史が下ってから。長い歴史をも培ってきた国民食は、こうしたシンプルなベジタリアン料理ということになるようです。また、小麦粉が採れない地域もあるため、シンプルではありながらおもてなし料理の一つになるという側面もあります。石油成金国になるまで裕福ではなかったと知れば納得感がありますね。
実食感想は、ジャリーシュ自体は淡白すぎ、ムサマナを合わせるとちょっと濃い味に。併せてもイマイチ良い塩梅にならず、個人的にはその日の体調を踏まえ、ジャリーシュのみを口に運ぶことが多かったです。
ハニースは子羊の蒸し焼き。サウジアラビア南部の料理で、この地に植生するマラク(Markh Tree)という植物の香りを付けながら、長時間かけてローストします。土窯で作るという特徴もプリミティブで振るっています。
調理の過程で、肉汁が敷き詰めた米に移るのが別のポイントで、一見スケールの大きいラム肉ライスと呼びたくなる姿が、味覚的には一体感を持った料理になっていました。
これをゴマペーストベース(他にレモン汁・塩・胡椒・ニンニクなど)のタヒニソースやナツメの花から採取される希少高級蜂蜜であるシドルハニーなどにディップして食べます。
実食感想は、マラクの香りがしたかどうかは正直言って覚えていないのですが、そのままで食べること、各種ソースを付けて食べることについて様々に試してみたことには、シドルハニーの甘さに惹かれるところが多分にありました。ラム肉の歯応えを中和する目的もあったように思いますが、この日は身体が甘さを欲したというのが本当のところかと。ステーキを甘いジャムやベリーのソースで食べさせる例がありますが、この日はそういう食べ方が一番しっくりきたということです。
他にもパンやらデザートやら、さらには併設したWGT-EXTRA13の会場だったくら寿司にもサウジアラビア料理が一品あって、含めて多々テーブルに並んだものの、大物中心の記録に留めましょう。
今一度今回触れたサウジアラビア料理を眺めてみると、なるほど”遺産”レスランらしい伝統料理が並んでいたと言えました。古くからの宗教活動に根付いた料理、運送技術が乏しかった時代の保存技術が駆使された料理、肉が主流でなかった時代の料理、原始的な調理方法の料理と、ちゃんと”遺産”というテーマに則していることが感じられました。
前述したような一般的なアラブ料理は登場しなかったものの、逆に料理を通して、古き良き時代のサウジアラビア料理の原風景を垣間見たと言えましょう。
さて、以上がサウジアラビア料理の振り返りですが、実はかなりの量を残すことになってしまいました。
コース料理自体の量が多かったということもあるのですが、暑さにやられて完全に食欲が減退状態になってしまったのです。いわゆる熱中症だったということです。
そう考えると、室内の席が確保できなかったことが悔やまれるところですが、それでもサウジアラビア料理を本質的かつ本格的な観点で体験できただけでも十分価値があったと思わなければなりませんね。
パビリオン見学はそれとして、会食中のサウジアラビアの蘊蓄も暑さの影響で振るわず。
個人的には、暑さにやられて身体を正して座っておられず斜めに傾きながら、事前調べの蘊蓄を魂込めずの紹介に終始。たまたまサウジアラビアにまつわるクイズを持参していたので(それも大した内容ではありませんでした)、それを参加型で読み上げたというくらいがちゃんとやったことでした。
なので、後付けでいくつか並べておきましょう。
アニメにおける日本との交流を前述しましたが、抹茶ブームなんて切り口もある模様。
リヤドやジェッダに暮らす若い世代が火付け役らしく、国旗の色じゃありませんが、緑色に彩られたドリンクが「ばえる」と感じるようです。そうして存在が認知されれば、年配者にはカテキンによる健康増進効果が重宝されることも必然。
世界的に抹茶不足が叫ばれる話は耳に入ってきていましたが、サウジアラビアだけ見ても、2022年に9トンだった日本産抹茶の輸入量が、2023年には約900％増の81トンに！ 2024年は46トンに下がるものの1トン当たりの価値は3万ドル→4万ドルと高騰。そりゃ不足もしますわね。
サウジアラビアのコーヒーの儀礼文化が、日本の茶道における儀礼文化と被る側面もあって、文化的価値も評価されているようです。
抹茶産業は2033年までは右肩上がりが保証される状態とのこと。近い将来抹茶枯渇で悩む日本の姿があるのでしょうか？ サウジアラビアから新しい抹茶の楽しみ方が逆輸入されることになるのでしょうか？
柔らかネタとして、ラクダに関するイベントなんてのもサウジアラビア文化。
この国ばかりでもありませんが、サウジアラビアのレースは世界最大とのこと。数先頭が参加し巨額な賞金を争います。アブドゥルアズィーズ国王キャメルフェスティバルはその中でも最高峰で、レースばかりでなく、美ラクダコンテストなども含めて、19のカテゴリで総額75億円を奪い合うとのこと。スケールが大きすぎてピンと来ません。
しかし、問題もアリやナシや。レースでは体重が軽い子供が騎乗するのですが、この子たちは低賃金で雇われかつ落駱駝する危険もあることから人道上の課題が指摘されており、最近ではリモコン付きのロボットが騎乗するスタイルに。美ラクダコンテストでは美容整形(ボトックス注射で弛み化、コラーゲン充填剤で唇や鼻を肥大化、ホルモン剤で筋肉増強)したラクダがノミネートしたことで、やりすぎ！と判断されて40頭以上が失格に(頭や首、コブの形や姿勢などで“美しさ”を審査され、長くてたるみのある唇や大きな鼻などが良いとされているようです)。
逆に、規制緩和がなされた点は、女性の参加が認められるようになったこと。別のイベントでは女性が騎乗してレースに出た事例もあったようです。
サウジアラビアにとって、時に陸の船であり、時に食料源でありと重要な家畜。様々な形でラクダを崇める姿勢が感じられます。もっとも、当のラクダは迷惑なだけかもしれませんけどね。
ネタが乏しいので、今更ながらサウジアラビア国旗についても触れておきましょう。
緑地に、聖句と刀を描いたデザイン。具体的には…
・「アッラーフの他に神はなし。ムハンマドはアッラーフの使徒である」というシャハーダ（信仰告白）
・メッカおよびイブン＝サウードの勝利や愛国心を象徴しているという刀
が示されます。
興味深いのはその他の特徴で、
・表と裏とで同じ国旗を2枚作り縫い合わせて一つにすること(反対から見ても読めるように)
・縦掲揚時も聖句が正しい向きになること(どの向きから見ても自然に読めるように)
・半旗掲揚をしないこと(尊い聖句が書かれているため)
・Tシャツやその他の物にプリントしないこと(尊い聖句が書かれているため)
などが挙げられるそうです。
国旗は御国のシンボル。無上の愛着を示す国もあればただの旗としか見ない国もありますが、少なくても他国のそれには失礼の無いように接さねばなりませんね。
サウジアラビア、知っているようで知らない国でした。
とはいえ、何度も書いた通り、旧態依然とした体制を変革しつつある姿も垣間見れました。折しも2025年11月には、米国トランプ大統領が、何かと丁々発止があるアラブ諸国であるはずなのに、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子をホワイトハウスに招き入れる出来事がありました。
中東諸国は欧米資本主義国のリーダシップの影に隠れて、今一つ弾けた感じがしないのが今今ですが、アラブの雄が世界の表舞台で発言権を増した時、世界にどのような影響を与えるのかは興味深いところです。
最後になりましたが、改めて幹事殿のWGTの歴史最大ともいえる多大なるご尽力を慰労させていただきます。
同道の皆様もお疲れ様でした。
次回以降です。
第165回はアミタ姉がカナダ料理を担当。立て込んでいるため開催募集保留中です。
第166回はToshがマラウィ料理を担当。実施済、
第167回はアミタ姉がフィンランド料理を担当。実施済み。実施報告作成中です。
第169回は須坂姉がオランダ料理を担当。主宰案内文作成中です。
第170回は善恵姉がバーレーン料理を担当。実施済、サウジアラビア料理報告と併せてアップしました。
第171回はToshがウルグアイ料理を担当。立て込んでいるため開催募集保留中です。
今後のWGT、いずれの回も皆さま奮ってご参加ください。
WGT主宰 Tosh